旅先の思い出か、継続か

不倫に拒絶反応をする私は、その出会いがまさかの関係に発展するなど、その時は思いもしませんでした。

昔の職場の同僚と、その日は昼過ぎから女子会をしよう、という話しになり、
二人ともお酒が好きなので、12時から居酒屋で飲んでいました。
ああでもない、こうでもない、あの課長は今どうしてる、あの受付の子は結婚した、など、他愛もない話で盛り上がり、気が付くと昼下がりに。
酒好きの二人にはエンジンがかかり、よし、はしご酒しよう!となりました。

二件目に訪れたのは、元同僚がおすすめという立ち飲み屋。
所謂、赤提灯の立ち飲みではなく、内装はデザイナーが細部にまでこだわったであろう雰囲気があり、暗めで、シャンパンやワインを嗜む立ち飲みでした。
カウンターのみの店内は混んでいて、隣の人と肩が触れ合う程の賑わいでした。

シャンパンを一杯飲んだ頃、元同僚はお手洗いへ行くとカウンターを離れました。
手持ち無沙汰の私は少し店内を見回し、ワインを口にしました。
その時です。

「ここよく来るの?」
隣で飲んでいた男性が私に声をかけました。
「初めてで」

彼は、彫りの深い顔立ちにひげが良く似合い、私より5歳ほど年上の、30代中頃に思いました。
185センチはあるであろう長身で、物腰が柔らかで面白く、要するに「もてる」タイプの人でした。
彼も二人組みで来ており、彼の友人も素敵な男性でしたが、彼の前では全くかすんでしまう程でした。

元同僚が戻る間に、名前や今住んでいる場所、好きなお酒の種類などの話をしました。

そして元同僚がお手洗いから戻り、四人で飲みはじめました。
そこで私は彼が既婚者であることを知りました。

残念だな、それが私の率直な気持ちでした。
ですが元来、不倫には抵抗があったので、そこから先は飲み友達になればよい、と気持ちを切り替えました。

帰り際、私と彼、そして元同僚がSNSで友達にだけなりました。
確かに楽しい会になったので、
「また飲もうね」と言われたとき、また飲もう、と素直に思いました。

それが深い仲になるなど、全く思いもせずに、です。

3年後の再会から、旅へ

初めての出会いから数週間は、SNSを通じて、来週飲まない?など頻繁な誘いがありました。
しかし1ヶ月を過ぎた頃から連絡は途絶え、SNSでの投稿に反応するだけになりました。

そうしているうちに私にも新しい彼氏ができました。
新しい彼氏との交際は順調で、半年を過ぎた頃プロポーズをされ、SNSにも彼の兄妹や母親など、彼一色に染まっていきました。

しかし結婚が現実味を帯びるにつれて二人の関係は悪化し、別れを告げられてしまいました。

別れのショックが大きい私はまず、SNSを退会しました。

別れから2年が過ぎた頃、元同僚から連絡がありました。

「久々に飲もうよ!」

元同僚とはあの立ち飲みの日から会っていなかったので、本当に久々になるなと思い、ご飯を食べに行くことにしました。

居酒屋で、元同僚が、

「前に4人で飲んだときの長身の彼ね、あんたの事気にしてたよ、
急にSNSからいなくなったって」

元同僚とその彼は、モデルをしていた時代があり、共通の知り合いが多く、パーティーなどでよく顔を合わしてらしいのです。

「今から呼ぶわ」

元同僚はそういうと彼に電話をし、30分ほどで到着する、というのです。

少し雨模様だったその日、
居酒屋に到着した彼は傘を持たず、パーカーを頭からかぶり、
相変わらずの自信に満ちたオーラをまとい現れました。

やっぱり格好いいな、そう思いました。

3時間程居酒屋で飲んだ後、珍しく、元同僚はお酒に飲まれてしまい、ふらふらだから帰る!と先に帰ってしまいました。
残された彼と私は、まだ飲み足らなかったのでワインバーへ移動しました。

欲望が理性に勝った証拠でした。
心の中で、酔いつぶれていく元同僚を見ながら、彼と二人で飲みたいからお願い帰って!と思っていたのが現実となり、
彼が既婚者かどうかなんでもうどうでもよくなっていました。

お酒の酔いもあり、彼と何を話したのか詳細には覚えていませんが、
連休の予定を聞かれ、
私はサービス業なのでずらした時期にハワイかグアムに一人で行く予定だと答えました。
すると彼も仕事で同時期にグアムにいるというのです。

そうなるとお酒の勢いがあり、
「じゃぁ行っちゃう?」
となる訳です。

そして終電の時間に近づいたので私たちは店をでました。
駅で、別れ際、人目に付かないようにロッカーの通りに隠れ、何度もキスをしました。
改めて連絡先を交換し、それぞれ別の電車に乗りました。

旅先の思い出か、継続か

相当飲んだのか、次の日はひどい頭痛で目を覚ましました。

「グアムの件、この日程だから、調整よろしく」
彼からのメールを見るまで、グアムのことなど忘れていました。
「わかりました」
とだけそっけなく返信をしたのは、グアムに行くつもりがなかったからです。

ですが数日経っても彼のことが頭から離れず
もうこの際行ってしまおう!と決断をしました。
彼は仕事でグアムに行っているので、私は出発を1日だけ遅らせることにしました。
ホテルも、私は賑わいから離れた場所で予約をしました。
旅行の準備が整った事をメールで彼に伝えるととても喜んでいました。

そして私が滞在しているホテルのバーで、彼に再会しました。
海の音を聞きながら、彼のモデル時代の話や、今までに行った国々の話、
深く話をするにつれ、私は彼に引き込まれていきました。

そしてそのまま私の部屋へ行き、一晩を過ごしました。

次の日、彼は会社のゴルフの予定だったのですが、私と過ごしたいとキャンセルをしていました。
私はとても嬉しく思いました。
昼過ぎまでゆっくりと部屋で過ごし、ランチをした後、彼は自分のホテルへ帰っていきました。

その夜、晩御飯を食べよう、と彼から連絡がありました。
地元のスーパーへ行き、ワインとおつまみを買って、部屋に戻りました。

そして互いの欲望のまま、また、体温を感じ合いました。
彼のがっしりとした腕に抱かれたまま、彼のこれからの夢やジョークを聞いていました。

二人とも、彼が独身であると自分に嘘をついていたような気がします。
そして何度も何度も、お互いを欲しました。

翌日、彼は帰国のため朝早くにホテルを出ました。
帰り際、日本でまた会おう、と彼はきつく私を抱きしめました。

その日の夕方、私はバーで一人飲みながら考えていました。
2日間、彼と過ごした時間はとても楽しく、笑い転げ、
彼がきれいな茶色い目をしていることを知りました。

何度も何度も彼は、この関係に依存をしそうだ、といいました。

そして私は、確かに彼に初めて会った3年前から、彼に惹かれていたこと、2日間で恋をしたことを認めました。

ですが心地のよいピアノの音に浄化されるがごとく、
私はその2日間を思い出としてグアムに置いて帰ることを決断しました。

以前に、泥沼まで発展した不倫を私は経験しており、
最後には好きという感情が執着に変わっていく惨たらしさを知っているからです。

ビールを飲みきり、思い出に変えました。

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